
自治会や町内会の活動を支える中心的な役割が「会長」です。地域の行事、防災や防犯の取り組み、行政との窓口など、多岐にわたる仕事を担うため、地域にとっては欠かせない存在です。しかし、この重要な役割を「誰が務めるのか」を決める段階で、多くの地域が悩みを抱えています。というのも、会長の仕事量は決して軽くなく、責任も大きいため、「ぜひやりたい」と手を挙げる人が少ないのが現実だからです。
そのため、会長選びは「順番だから仕方ない」「断りにくいから受けざるを得ない」といった消極的な理由で決まるケースが少なくありません。公平さを保つために輪番制を採用している地域も多いですが、家庭や仕事の事情を無視して一方的に割り当てられると、本人や家族にとって大きな負担になります。中には、話し合いが深夜まで続いたり、押し切られるような形で承諾したりと、選出の場自体が住民にとってストレスになってしまうこともあります。
私自身も過去に2年間、自治会長を務めた経験があります。その中で、会長という立場の責任の重さや仕事の煩雑さを実感すると同時に、「どうすればもっと公平で、無理のない仕組みが作れるのか」という課題を強く感じました。今回は、その経験を踏まえて、自治会長・町内会長の選び方の現実と、少しでも負担やトラブルを減らすための工夫について紹介していきます。
自治会長・町内会長の選び方の実態
立候補制
立候補制は、会長を自らやりたい人が名乗り出て決まる方法です。自主性に基づくため、意欲のある人が担うことで活動が活発になりやすいのが特徴です。しかし現実には「やりたい人」がなかなか現れず、結局は毎回同じ人が担当したり、経験者に頼りがちになるケースが多いのが実情です。自由意志を尊重できる一方で、制度としては不安定になりやすく、「立候補がゼロの場合どうするか」という次の課題が必ずついて回ります。
- メリット
やる気のある人が主体的に取り組める。活動の質が高まりやすい。 - デメリット
立候補者が出ない場合が多く、固定化や偏りが生じる。
推薦制
推薦制は、住民や役員が「適任者」と思う人を推して会長に就任してもらう方法です。地域に詳しい人や経験者が選ばれやすいため、スムーズな運営が期待できます。ただし、推薦される側は「断りづらい」と感じることが多く、押し付けのような空気が生まれやすいのも事実です。推薦の裏には人間関係や派閥的な要素が絡むこともあり、公平性や透明性が問われることもしばしばあります。
- メリット
適任者が選ばれやすく、経験を活かした運営が可能。 - デメリット
推薦された側は断りにくく、押し付け感が強まりやすい。
輪番制(持ち回り制)
輪番制は、地域の世帯ごとに順番で会長を務める方法です。最も広く採用されている仕組みであり、「公平に負担を分け合う」という点では納得感があります。しかし、仕事や家庭の事情に関わらず強制的に順番が回ってくるため、無理に引き受けざるを得ない人が出てしまうのが大きな課題です。地域の事情に左右されにくい一方で、人によっては強い負担感となり、途中で辞任するケースも見られます。
- メリット
公平に順番を回すことで「誰かに偏らない」仕組みが作れる。 - デメリット
個人事情を無視して割り当てられ、負担感や不満が大きくなる。
くじ引き
くじ引きは、立候補や推薦で決まらない場合の最終手段として採用されることが多い方法です。誰にでも平等なチャンスがあるため、一見すると最も公平に見えます。しかし、当たった人がどんな事情を抱えていても「くじだから」と受けざるを得ず、実際には断りにくい雰囲気が強まります。中には、当選した人が強く辞退してトラブルになることもあります。公平性と柔軟性を両立するのが難しい選び方です。
- メリット
完全に平等で、誰にでも機会が与えられる。 - デメリット
個別事情を無視しやすく、辞退や不満のトラブルにつながる。
実際に自治会長を務めて感じた課題

私が自治会長を務めたとき、まず最初に直面したのは会長選出の場そのものでした。ある年の選出会議では、誰も名乗り出ず話し合いが平行線のまま続き、結局深夜までかかったことがあります。公平に決めたい一方で「自分はできない」という理由が並び、時間だけが過ぎていくあの空気は重苦しく、地域のつながりの脆さを実感しました。
次に、私自身が会長を引き受けることになった経緯も「押し切られるように承諾した」形でした。本心では迷いがありましたが、場の空気や「誰かがやらねば」という責任感に流され、断る選択肢が取りづらかったのです。
実際に役割を担ってみると、想像以上の負担がありました。行事の準備や行政との連絡調整、会計や文書仕事まで、こなすべき業務は多岐にわたり、仕事や家庭との両立は容易ではありませんでした。
しかし一方で、得られるものもありました。住民から「ありがとう」と声をかけられたときの嬉しさや、地域行事が無事に終わったときの達成感は、苦労の中でも心に残っています。負担とやりがいが常に表裏一体であることを、身をもって感じた2年間でした。
自治会長・町内会長選出の現場でよくあるトラブルや住民の声
事情があっても断れなかったケース
役員選出の場では「家庭の事情で無理」「仕事が忙しい」と断りたい人がいても、その声が十分に尊重されない場合があります。公平性や地域の慣習が優先され、結局は事情を抱えたまま引き受けざるを得ないケースです。これにより本人が疲弊し、家庭や職場にも影響を及ぼすことがあります。

母の介護で無理だと伝えたのに、結局やるしかなくて辛かった
同じ人にばかり頼る形になったケース
「前にもやってくれたから安心」という理由で、経験者に再びお願いするケースは少なくありません。確かに仕事はスムーズに進みますが、同じ人に負担が集中し、不公平感や疲弊が積み重なります。長年支えてきた人ほど「またか」という気持ちになりやすいのです。



結局いつも同じ人にお願いしてしまい、申し訳なさと不公平さを感じる
役員のなり手がなく空白期間が生まれたケース
深刻なのは、誰も手を挙げず役員不在の期間が生まれるケースです。この場合、行事が中止されたり、行政との連絡窓口が途絶えたりと地域活動全体に支障が出ます。空白期間を経てからの再建は大きな労力を要し、地域の一体感にも影響します。



誰もやらないせいで夏祭りが中止になり、子どもたちが残念がっていた
私が耳にした住民の声
会長経験を通じて、多くの住民の本音を耳にしました。「ありがとう、助かります」といった感謝の声もあれば、「負担が重すぎる」「もっと行政が支援してくれれば」という不満の声もありました。また、「次は自分に順番が回ってくるのでは」と不安を抱える住民も多く、会長選びは常に地域の空気に影響を与えていました。



感謝はあるけど、自分に順番が来ると思うと正直不安で仕方ない
公平で柔軟な仕組みづくりの工夫
自治会長・町内会長選びで最大の課題は、「誰に負担を押し付けるのか」という消耗戦になりやすい点です。これを避けるには、事前に住民の意向や家庭事情を把握しておく工夫が欠かせません。例えばアンケートを行い、「できる・できない」「将来的には引き受けられる」などの声を可視化すれば、無理のない候補者選びが可能になります。
また、近年は一人にすべてを背負わせず、複数人で会長を務める「ツイン制」や役割分担型を導入する地域も増えています。会長Aは行政対応、会長Bは行事運営といった形で分担すれば、心理的・時間的な負担は大きく減ります。
さらに、任期を短縮する工夫も効果的です。通常1年のところを半年ごとや前後期制に分けることで、「長く続ける不安」が軽減され、引き受けやすくなります。
「できる人が、できることを」という方針も大切です。会長だけでなく役員や住民全体で役割を分担し、得意分野を活かして協力する仕組みにすれば、会長一人に過剰な責任が集中しません。
加えて、ICTを活用するのも有効です。LINEやメールで連絡を効率化したり、デジタル回覧板を導入して紙の回覧や配布作業を減らしたりすることで、事務負担は格段に軽くなります。小さな工夫の積み重ねが、住民が安心して役割を担える柔軟な仕組みづくりにつながるのです。
私の経験から得た学び


2年間の自治会長経験を通じて強く感じたのは、「完全に公平な選び方は存在しない」ということです。立候補制でも推薦制でも、輪番制やくじ引きでも、必ず「偏り」や「不満」は生まれます。誰もが納得できる制度を追い求めるよりも、「できるだけ無理のない関わり方」を模索することの方が現実的であり、地域にとって持続可能だと学びました。
そのためには、役割を押し付け合うのではなく、住民が協力し合って支え合う姿勢が欠かせません。「会長だから全部やる」のではなく、「会長は旗振り役で、住民がそれぞれ少しずつ力を出す」という形に変えていく必要があります。実際、行事や会議で「人手が足りない」と声を上げると、多くの人が短時間でも手伝ってくれました。小さな協力の積み重ねが、会長一人の負担を和らげるのです。
また、会長を経験した人が次の世代にどう引き継ぐかも大切です。私自身、任期を終える際には、後任の方に業務マニュアルを残し、行政との連絡方法や行事準備の手順を整理して渡しました。こうした工夫があると、次に引き受ける人の心理的ハードルは下がり、地域の継続性が守られます。
会長経験は決して楽なものではありませんが、その中で得られた「工夫すれば無理なく続けられる」「支え合えば地域はもっと楽になる」という学びは、次の世代に伝えていくべき財産だと感じています。
まとめ
自治会長・町内会長の選び方は、どの地域でも頭を悩ませるテーマです。立候補や推薦、順番制やくじ引きなど方法はいくつかありますが、どれにもメリットとデメリットがあり、「これが正解」という答えはありません。大切なのは、住民一人ひとりの事情や思いをできるだけ尊重しながら、無理のない形で役割を分担していくことだと思います。
私自身、会長を務めた2年間は決して楽なものではありませんでしたが、その中で「ありがとう」と声をかけてもらえた瞬間や、地域がひとつになって行事をやり遂げた達成感は、今でも心に残っています。苦労もあったけれど、地域を支える喜びも確かにあったのです。
これから会長や役員を務めることになる方も、「一人で抱え込む必要はない」ということを忘れずにいてほしいと思います。できることを少しずつ持ち寄りながら、押し付け合うのではなく、支え合う気持ちで進めていけば、地域のつながりはきっと強くなっていくはずです。
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