
はじめに~突然のバトン、「私が会長⁉」から始まった2年間
自治会長・町内会長という役割は、特別なリーダーが自ら立候補して務めるものだと思っていました。ところが実際には、「順番だから」「他にやる人がいないから」「そろそろお願いできますか」といった、いわば流れの中で任されるケースが多いようです。私もまさにその一人でした。
「自治会長をお願いします」と言われたとき、正直なところ、不安と戸惑いの気持ちでいっぱいになりました。地域のことといえば、せいぜいゴミステーションの清掃当番や回覧板に関わる程度で、自治会の運営については何も知りませんでした。過去に役員をやった経験もなく、いきなり会長という大役に、何から始めればいいのかも分からず、とても不安に感じていました。
それでも断りきれなかったのは、「誰かがやらなければならない」という責任感と、「自分が暮らす地域に対して無関心ではいけない」という思いがあったからです。だからこそ、できることから一歩ずつ始めようと決意しました。最初の数か月は、過去の資料や会計帳簿とにらめっこしながら、ひとつひとつの業務を手探りで進めました。毎日のようにため息をつきながらも、「任されたからには」と気持ちを奮い立たせていました。
そして2年間の任期を終えた今、私ははっきりと言えます。地域と向き合うことには、確かな意味と価値があります。悩みも苦労もありましたが、その中で得られたものは、地域の人とのつながりや、かけてもらった「ありがとう」の言葉でした。
これから自治会長になる方が、少しでも安心してスタートを切れるように、私の経験をもとにした「不安と孤独を乗り越える5つのポイント」をお伝えしたいと思います。
ポイント①「全部やろう」と思わないこと~頼るは弱さじゃない

「責任感」が自分を追い込んでいた
自治会長に就任した当初、私は「会長なのだから全部自分でやらなければ」という思いにとらわれていました。引き継ぎの際も「ここまでは自分で判断してくださいね」といった言葉を受け取り、何となく「全部を管理する立場なのだ」と思い込んでいたのです。けれど実際に動き出すと、その負担は想像以上に大きく、日々の暮らしと並行してすべてをこなすのは限界がありました。
「頼れる存在」がすぐそばにいた
そんなとき、支えになってくれたのが、副会長や組長さんたちの存在です。「こういうときはどうしていましたか?」「一緒に考えてもらえませんか?」と声をかけると、皆さん本当に親身になって相談に乗ってくれました。過去の資料や議事録にも、多くのヒントがありました。また、市の担当部署に電話をすると、手続きや対応のアドバイスを丁寧に教えていただけたことも大きな助けになりました。
「助けてください」が信頼につながる
最初は「頼ることは申し訳ない」「できないと思われたくない」と感じていましたが、実際に助けを求めることで、かえって周囲との距離が縮まっていくのを感じました。「一人で抱え込まなくていい」という空気ができると、自然と協力し合う雰囲気が生まれます。役割を分担し、得意な人に任せることで、自治会全体の動きもスムーズになりました。
「背負う」から「分け合う」へ
自治会長はすべてを一人でやる必要はありません。むしろ「分け合うこと」が、地域の力を育てる第一歩だと実感しました。大切なのは、責任を一人で背負うのではなく、チームで乗り越えていくという意識です。助けを求めることは決して弱さではなく、信頼を築くための大切な一歩なのだと思います。
- 自治会長に就任すると「全部自分でやらなければ」と思いがち
- 実際には副会長・班長・行政担当者・過去資料など頼れる資源がある
- 「助けてください」と言うことで周囲との距離が縮まり、協力体制が生まれる
- 仕事を分け合うことで自治会全体がスムーズに動く
- 頼ることは弱さではなく、信頼を築く第一歩
ポイント②:「わからない」をそのままにしない~情報の壁は孤独を生む

引き継ぎはあったけれど「分からないことだらけ」
自治会長に就任する際、前任者からの引き継ぎは一応ありました。しかし、正直に言うと「よくわからないまま始まった」というのが本音です。引き継ぎの場では、説明を受けながらも理解しきれず、あとになって「これってどういう意味だったんだろう?」と悩むことが何度もありました。
すべてが「初体験」の中で感じた不安
会計処理のルールや帳簿のつけ方、ゴミステーションの管理、防犯灯の設置や修理の手配、地域の祭りの準備や寄付金の扱い方など、何もかもが初めてのことばかりでした。過去の資料を見ても、用語や経緯が分かりにくく、ますます混乱してしまうこともありました。その結果、「間違っていたらどうしよう」「誰に聞けばいいのかわからない」と、不安ばかりが募っていきました。
行政や町内会連合会に頼るという選択
そんな中で、一歩踏み出してみたのが、行政の担当課や自治連合会への相談でした。最初は「こんなことで聞いていいのかな」とためらいましたが、思い切って電話をかけてみると、驚くほど丁寧に教えてくれました。「分からないことがあるのは当然ですよ」「皆さん最初は戸惑いますから」といった言葉に、どれほど救われたかわかりません。
情報が得られるだけで、不安は小さくなる
わからないままにしておくと、疑問はどんどん膨らみ、やがて「自分には向いていないのでは」とさえ思ってしまいます。でも、たった一つ相談するだけで、情報が整理され、次にどう動けばいいのかが明確になります。そうなると、自然と気持ちも落ち着き、自信も少しずつ持てるようになっていきました。
「わからない」と言える勇気が、安心への第一歩
自治会長という立場でも、「わからない」と言っていいのです。むしろ、その一言が、地域とのつながりや支えを引き寄せてくれる大きなきっかけになります。情報の壁を越えるためには、まず声を上げること。そして、その先にあるのは「一人で悩まなくていい」という、安心の土台です。
- 引き継ぎはあっても内容が不明瞭で混乱することが多い
- 会計やゴミ、防犯灯、祭りなど業務の多くが初体験で不安になる
- 資料だけでは理解できないことも多く、一人で抱えがち
- 行政窓口や町内会連合会に相談することで具体的な解決策が得られる
- 「わからない」と言える勇気が、安心感と自信につながる第一歩
ポイント③:住民との対話で不満が信頼に変わる

苦情や要望は「関心」の表れ
自治会長になってすぐ、最初に戸惑ったのは住民からの苦情や要望でした。ごみの出し方、防犯灯の点灯不良、寄付の使い道など、さまざまな声が届きます。その一つひとつに対応するのは、思った以上に神経を使いますし、時には責められているような気持ちになることもありました。
しかし、ある時気づいたのです。「文句を言ってくる人」は、実は「地域のことを考えてくれている人」でもあるのだと。何も関心がなければ、そもそも声すらあげないはずです。そう思った瞬間、苦情が敵意ではなく関心の裏返しに見えてきました。
たった一言が心に残る
印象的な出来事があります。ある住民から「防犯灯が切れている」と連絡があり、すぐに現場を確認して修理の手配を行いました。数日後、その方に「対応早くて助かりました。ありがとう」と声をかけられたのです。その一言が心に残り、「やってよかった」と初めて素直に思えた瞬間でした。
住民の声に耳を傾け、行動で応えることで、少しずつ信頼関係が育まれていく。その手応えを感じた出来事でもありました。
見える運営が「納得感」につながる
もう一つ意識したのが、会計や活動報告をできるだけ見える化することです。総会の場だけでなく、必要に応じて報告書を回覧したり、回覧板に「今どんなことを進めているか」を簡単に記載したりしました。些細なことでも情報を共有することで、「ちゃんとやってくれている」という安心感につながります。
また、意見を出してくれた方には「先日の件、あれからこう対応しましたよ」と一言伝えるようにしました。小さな対話の積み重ねが、誤解を防ぎ、信頼を築くことにつながったと感じています。
会長は「話しやすい存在」であればいい
自治会長は何か特別なことを成し遂げる必要はありません。大切なのは、「話せる人」「相談できる人」であること。住民の声に対して「聞く姿勢」を持つだけで、地域の空気は変わっていきます。
信頼は一朝一夕では生まれません。けれど、丁寧な対話の積み重ねが、やがて「会長がいてくれてよかった」という言葉につながるのだと思います。
- 苦情や要望は、地域への「関心」の裏返しと受け止めることが大切
- 防犯灯の修理など、迅速な対応が「ありがとう」の言葉につながる
- 定期的な総会や回覧で、会計・活動内容の見える化を心がける
- 意見をくれた住民には結果報告を伝え、納得感と信頼を育む
- 会長は「話しかけやすい存在」であることが、信頼の基盤になる
ポイント④:デジタルの力で「効率」も「引き継ぎ」も安心に変える

紙の回覧、手書きの出欠表…負担が積み重なる
自治会長としての仕事には、思いのほか事務作業が多くあります。たとえば、回覧板の作成・印刷・配布、イベントの出欠確認、報告書の作成や掲示物の管理など、細かな作業が積み重なることで、時間と手間がかかっていました。特に忙しい平日にそれをこなすのは、精神的にも大きな負担でした。
LINEやGoogleフォームで「ラク」と「伝わる」を両立
そこで取り入れてみたのが、デジタルの力です。紙の回覧板の代わりに、LINEグループや一斉送信を活用してPDFや画像でお知らせを配信しました。また、イベントの出欠確認にはGoogleフォームを使い、回答が自動集計されるようにしました。
最初は「高齢者には難しいかも」と心配しましたが、紙と併用しながら徐々に浸透させたことで、若い世帯や共働き世帯から「助かる」「見やすい」といった声をいただきました。伝える手段が増えることで、情報がより確実に届くようになったと感じます。
データを残すことで引き継ぎもスムーズに
もうひとつ、デジタル化の大きなメリットは「記録の共有と継続」です。これまで紙でバラバラに管理されていた会計報告や議事録、イベント資料などを、Googleドライブなどのクラウドにまとめて保存するようにしました。
次期会長には、これらのデータと簡単な操作マニュアルを渡すだけで、「何をどう進めればいいか」がすぐに分かる状態に。実際に「これはありがたい」と感謝され、自分自身も「安心してバトンを渡せた」と思えました。
無理なく、できる範囲で始めるのがコツ
すべてを一気にデジタル化する必要はありません。最初は通知の一部だけ、回覧板だけ、といった小さなところからで十分です。「これは紙のほうがいい」という意見も尊重しつつ、無理のない形で進めることがポイントです。
「便利な仕組み」を取り入れることで、自分も楽になり、次に続く人の負担も軽くなる。デジタルは効率だけでなくつながりや安心も生み出してくれる、大きな味方だと実感しました。
- 紙の回覧板や手書きの出欠表は、時間と手間の大きな負担になる
- LINEやGoogleフォームを活用することで、情報伝達と集計がスムーズに
- 若い世帯からは「便利」「助かる」と好評、高齢者には紙と併用で対応
- クラウドで資料を保存・共有することで、次期会長への引き継ぎが簡単に
- デジタル化はすべてでなくてよい。無理なくできるところから始めるのがコツ
ポイント⑤:地域とのつながりが「自信」と「誇り」になる

最初は「できるか不安」だった自分が…
自治会長を引き受けた当初、「自分にできるのだろうか」と何度も不安になりました。やるべきことは多く、住民との距離も遠く感じられ、「こんな自分が地域の代表でいいのか」と自信をなくす日もありました。しかし、2年間の任期を終えるころには、その気持ちは少しずつ変わっていました。
それは、地域の人たちとのささやかなやり取りが、私の心に大きな変化をもたらしたからです。
見守り活動で感じた「顔が見える」安心感
たとえば、通学路での子ども見守り活動。最初は緊張しながら立っていましたが、子どもたちが「おはようございます!」と元気に声をかけてくれるようになりました。何気ないあいさつでしたが、地域に「顔を知っている大人がいる」ということの意味を、実感した瞬間でした。
また、高齢の方から「あなたが顔を出してくれると安心する」と言われたとき、思わず胸が熱くなりました。「ただそこにいるだけ」で誰かの安心につながることがある。それは、会長として何よりうれしい言葉でした。
誰かの役に立っているという実感が「自信」になる
回覧板の見直しやイベントの改善など、小さな工夫が「ありがとう」という言葉に変わることがありました。そのたびに「やってよかった」と思いましたし、「自分にもできることがある」と少しずつ自信が育っていきました。
地域の一員として、人と人とのつながりの中に身を置くことで、自分自身の役割や存在意義がはっきりしてくる。そんな感覚を覚えました。
最後は「誇り」を持ってバトンを渡せた
最初はただ不安だった役目が、終わるころには「やってよかった」と思える経験になっていました。そして、次にバトンを渡すときには、記録や仕組みを整え、「困ったらこれを見てください」と安心して言える自分がいました。
自治会長という役割は、確かに負担もありますが、地域に関わる中で得られるつながりや信頼は、それ以上の財産になります。今は「地域のため」というより、「地域と共に」という思いで、これからもできる範囲で関わっていきたいと思っています。
- 会長就任時は「自分に務まるか」という強い不安があった
- 見守り活動で子どもたちからあいさつされ、安心感とつながりを実感
- 高齢者から「顔を見ると安心する」と声をかけられたことが励みになった
- 工夫や改善が「ありがとう」の言葉につながり、自信が育っていった
- 最後には「やってよかった」と感じ、誇りを持ってバトンを渡すことができた
おわりに:「不安」と「孤独」は、地域とのつながりで乗り越えられる

自治会長を2年間務めてきた私が、最初に感じたのは「不安」と「孤独」でした。誰に聞けばいいのか分からない、何が正解かも分からないまま、手探りで始まった日々。しかし振り返ってみると、その経験は自分を成長させてくれただけでなく、地域との絆を深めてくれる貴重な時間でもありました。
このコラムでお伝えした「5つのポイント」は、どれも私自身が実際にぶつかった壁であり、そこから抜け出すために試行錯誤してきた実感に基づくものです。
- すべてを抱え込まず、人に頼ること
- 分からないことをそのままにせず、相談する勇気を持つこと
- 住民との対話を大切にし、声を無視しないこと
- デジタルを上手に活用して、負担と引き継ぎを軽くすること
- 地域とのつながりを通じて、自分の役割に誇りを持つこと
これらは、自治会長だけでなく、地域に関わるすべての人にとって共通するヒントかもしれません。
自治会の運営は、一人では決してできません。そして、完璧である必要もありません。頼れる人に頼り、住民と向き合い、ほんの少しずつ「地域がよくなるように」と思いながら動いていく。その積み重ねが、結果として地域の信頼や安心につながっていくのだと実感しました。
これから自治会長を務める方へ。もし今、同じように不安や孤独を感じているなら、「一人じゃない」ということを、どうか忘れないでください。そして、自分らしいやり方で地域と関わる中に、きっとあなただけの「安心」が見えてくるはずです。
小さな一歩の積み重ねが、やがて地域を支える大きな力になります。どうか、力まず、背負いすぎず、自分のペースで歩んでください。
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