既存施設の課題と再整備の必要性
豊橋市が今回の斎場建て替えを進めた背景として、市の説明では「施設の老朽化」と「火葬需要の増加」が主な理由として挙げられていました。旧斎場は昭和51年に全面改築されたものの、既に築40年以上が経過しており、建物や設備の劣化は避けられない状況でした。利用者の高齢化にともなうバリアフリー対応の不備や、待合スペースの狭さといった課題もあり、施設の更新は必然だったと言えるでしょう。
加えて、市が公表した将来予測によれば、豊橋市における年間の火葬件数は平成27年度時点で3,418件でしたが、人口構成の変化を踏まえると、令和47年度には約4,711件にまで増加すると見込まれています。それに対応するためには火葬炉12基が必要と試算されており、現状の設備では将来的な需要に対応できないというのが市の見立てでした。
こうした数字をもとにすれば、建て替えの必要性には一定の理解ができます。ただし、私たち地域住民にとっては、機能や需要といった数値的な説明だけでは不十分です。より重要なのは「日常生活への影響」という観点です。
実際、旧斎場でも告別式の際には参列者の車が住宅地の中まで入り込むことがあり、交通の混雑や駐車マナーの問題がしばしば起きていました。また、敷地内での喫煙が禁止されてからは、外に出て住宅地周辺で喫煙する利用者が増えるといった、生活環境への新たな懸念も生まれました。
このような経験を踏まえれば、建て替えにあたっては単なる「機能向上」だけでなく、「地域とどう共存するか」が極めて重要な課題であったはずです。斎場という施設の性質上、利用者にとって快適で安心な空間であることは当然求められますが、それと同時に、すぐ隣で暮らす住民にとっても、心理的・環境的負担を最小限にする設計や運用が求められていたのです。
新しい施設では、無煙無臭化や高断熱化といった環境面への配慮がなされ、「市民にやさしい施設」として整備されたと市は説明しています。しかしながら、実際の運用においてどのようにそれが反映されているのか、また計画段階でどれだけ地域の声が汲み取られたのかについては、いまだ疑問が残ります。
たとえば、災害時の一時避難所としての活用や、斎場敷地内に遊歩道を設けて通学路として整備する案など、地域住民から出された具体的な要望もありましたが、結果としてそれらは計画に反映されませんでした。こうした事実は、「地域とともにある公共施設」としてのあり方が、十分に議論されなかったのではないかという思いにつながっています。